このサイトでも歳時記にちなんだ記事には、
こよみ便覧(暦便覧)によるととしれっと書いてあります。
書くたびに心苦しかったのですが、
書くと長くなりそうなので別記事でと思っておりましたが、
ずるずる先延ばしになってしまいました。
この暦便覧というのは何かに関して、
調べていきましょう。
本当に知っていて当然?~暦便覧って何?
知っていて当然じゃない
色々なサイトを見る限り、
「暦便覧によると」と書かれていますが、
「暦便覧」が何かということに触れているものはほとんどありません。
書かないということは知っていて当然なことなんでしょうか?
そもそも何でこれがそんなに登場するんでしょうか?
暦便覧とは
暦便覧は正式名称が、
「こよみ便覧」です。
大変貴重な本で、
国立国会図書館と東京大学に所蔵されているということが確認できます。
それ以外は見つかりませんでした。
天明7年(1787年)に書かれた本で、
江戸時代、11代将軍徳川家斉公の時代です。
天明の大飢饉(冷害・浅間山噴火・洪水)のせいで、
打ちこわしなどが発生する、
治安や経済が悪化している時代です。
そんな時代に書かれたということは、
生活にさほど不安をおぼえない人物が書いています。
太玄斎
太玄斎はペンネームで本名は松平頼救という、
常陸宍戸藩5代目藩主です。
隠居してから太玄斎を名乗っています。
ただ、頼救公が隠居したのは、
1808年で亡くなったのは1830年。
ちょいとしたタイムパラドックスみたいな感じになりますけれども。
藩主であった時代にまとめたものの可能性もありますので、
そのあたりは責めないでください。
こういった異常気象もあって、
季節の上の日を重視しこの日にはこういうことをせよとまとめたのかもしれません。
農業関連の説明を端的にわかりやすくまとめてあるのも、
後世になって引用しやすい要因となっております。
国会図書館に収蔵されている分に関しては、
ネット上で見ることができます。
国立国会図書館デジタルコレクション「こよみ便覧」
何でこんなに広まった
先ほどの編纂の経緯はあくまでカザマツリの予想ですけれど、
上のリンクからこよみ便覧の閲覧ページを見ていただくと分かると思いますが、
漢字とひらがなで書かれており、
一部漢字にはルビも振ってあります。
江戸時代でも日本の識字率(字が読める人の割合)は高かったと言われています。
誰でも読めるように、
実用書として書かれています。
ページ数も18ページと少ないですが内容は濃縮されています。
それ以前の暦の本は実用的とは言い難く、
どちらかというと学術書のような感じです。
男性が書いていることが多いため、
ひらがなの入らない漢文のような文体で読むのは容易ではありません。
きちんと読んだことはありませんが内容を理解するのも難しいと思います。
内容が分かりやすく読みやすいということで、
二十四節気の説明のWikipediaにいつのころからか、
引用されるようになりました。
それが今日の広がりを見せたのかもしれません。
何でそう思うのか。
こよみ便覧は江戸時代の書物です。
句読点は書かれていません。
句読点は明治以降の概念だからです。
例えばWikipediaの夏至のページ。
季節の項目にこよみ便覧の引用があります。
『暦便覧』には「陽熱至極しまた、日の長きのいたりなるを以てなり」と記されている。
Wikipedia夏至のページ季節の項より
読点が入っています。
おそらくこの文章で読点(、)は陽熱至極しの後の方がしっくりきます。
おそらく引用した方が間違えたのでしょう。
ところが多くの夏至について書かれたサイトには、
Wikipediaに書かれた状態の、
「陽熱至極しまた、日の長きのいたりなるを以てなり」と書いてあります。
これはWikipediaを見て書いたとは言いませんが、
影響を受けたといっていいのではないでしょうか。
私知と公知
民事訴訟法の概念とは違う概念の、
私知と公知です。
私知は自分だけが知っていること。もしくは知恵とかのことです。
公知とは公に知られていること。もしくは公になっている知恵とかのことです。
こよみ便覧はかつては公知だったわけです。
それが時が流れに伴い、
徐々に埋もれていきました。
けれども少数の人の私知として残りました。
私知は公知にすることが望ましい。
知識は財産なのです。
財産ですが公共財のように公にしなければなりません。
かの有名な方も仰っています。
知識は水だ。独り占めしてはいけない。
松陰寺太勇(ぺこぱ)
一度は埋もれかけたこよみ便覧をWikipediaによって蘇ったわけですから、
あちこちで見かけるようになるのはむしろ良いことではないでしょうか。
ちなみにこの私知と公知の概念は、
大学時代にゼミの教授の手伝いで、
とある文系学会のスタッフとしていった際に、
とある偉い先生の基調講演として出てきた話を、
引用というか丸パクリです。
あ、当然ぺこぱの引用は先生はしてません。
これも私知と公知ですよね。
違うかもしれない。
それから、「こよみ便覧」が題名ですが、
本のページ数の欄には「暦便覧」と書かれているので、
あながち間違いとは言えませんので、
あしからず。
要するに
- 暦便覧は正式名称は「こよみ便覧」
- 江戸時代中期に書かれた実用書
- 著者は太玄斎こと松平頼救
- 全18ページとコンパクトかつ分かりやすくまとめられている
- 原本は国会図書館と東京大学にあるがWeb公開されています。